ひとりごと

迷いながら書きます。読んでいただきありがとうございます。

【オススメの本】という言葉の恐怖

今週のお題「読書の秋」

 

会社の朝礼で「オススメの本はなんですか?」と、唐突に聞かれた。

あがり症の自分は、突然の名指しに頭が真っ白になってしまう。その場にいる全員の神経が、私の言葉に集中する。地獄のような状況で、当然うまく答えられず、 デスクに置きっぱなしになっていた、 グラビアモデルのエッセイ本を紹介した。
微妙な空気に赤面したまま朝礼が終わり、デスクに戻った私は、ザ・フォーク・クルセダーズの『悲しくてやりきれない』を無心で流して、 何も考えないようにした。
(もちろんそのエッセイはお気に入りで、 楽しく読んでいるのだが)

【オススメの本】という言葉ほど、怖いものはない。
質問してくる相手にとっては、 軽いコミュニケーションのよくある話題のひとつで、 あまり深い意味がない場合が多いだろう。
でも、自称読書好きの自分としては、 試されているような気がして、 軽い気持ちで答えることはできない。

書店に勤めていたころは、まだよかった。
「中学生の子供に読ませたいんだけど、何がいいかしら?」
「大学で太宰治にハマったんですけど、 他におもしろい本ありますか?」
など、具体的かつ、嗜好、目的がハッキリした質問であれば、 嬉々として回答できた。
一緒に悩み、あらすじを説明し、 本を紹介する時間は幸せな時間だった。

しかし、何も手掛かりのない状況で、本を紹介しろ、と、 唐突に言われても困るのである。

応えられなかった自分に残った感情は【悔しい】だ。
大好きな作家さんはたくさんいるのに。 何度も読み返したい本はたくさんあるのに。

普段本を読まない人に、谷崎潤一郎の『細雪』は難しいかな。
ミステリばかり読んでいる男性の方に、小川洋子さんの『琥珀のまたたき』 はピンとこないかな。
物語しか読まない人に、壇原照和さんの『白い孤影 ヨコハマメリー』は違うかな。

ぐるぐる、ぐるぐる。

私がこうしてウジウジ悩んでいても、質問してきた人は、 質問したことすら、忘れているのだろう。
わかっているが、どうにも悔しい。
手札を作らねば、と、決意する。
今度、誰かに聞いてみよう。

 

「オススメの本があったら、教えてください」